がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

お姫様と羊飼い

 

 

 

私と同じ事務所にいる女の子が「献血行って400グラム減らさなきゃ」と意気込んでいます。

 

と思いきや「服の重さ1キロ減らしてくれなかった」と別の女の子はうなだれています。

 

私の会社は年度が変わり、季節はずれの健康診断シーズンが到来です。

 

 

食欲の秋に健康診断。

やれ焼き芋だ、やれ映えモンブランだ、やれ肉まんシーズンの到来だと浮き足だった私たちに裁きの鉄槌が下されるのです。

 

手術してからは初めての健康診断。

診察場所は毎年検診でお世話になっている一般の病院。

勤務場所が変わって私も来るのは、ほぼほぼ初めての病院です。

んー、いつものドクターでもないし、いつもの検査とはまた違った感じでドキドキです。

どーなるんだろーと思いつつ指定された時間AM7:30に病院へ。

 

 

時間、早すぎるでしょ。

 

 

お客さん誰もいないでしょと思いつつ待合室を覗いてみると、さすが人生の大先輩たち。

シャッターが降りた受付の前に、おジジ様とおババ様がすでに数人座って病状の告白合戦が開始されています。

 

 

「最近、ヒザが痛くてまともに歩けもしねぇ」

「最近、耳が遠くて誰がきてもわかりゃしねぇ」

「そうねぇ、秋は食いもんがねぇ、ウマくてねぇ」

 

韻を踏みながら、互いにラップバトルを繰り広げている大先輩もナースに名前を呼ばれ、ゆっくりと立ち上がる動作が逆に大御所オーラを感じさせるほどに堂々としていて、日本の高度成長を支えてきたプライドを感じます。

 

私の名前がナースに呼ばれ、そこには私と同い年くらいの見た目、眉間にシワが深く刻まれたどんな悪霊も払い除けるほどの仁王像ばりに険しい、怖そうだな系のナースさん。

 

「熱測りますから」と言って、マゴマゴしている他のナースが持っている赤外線体温計を無言でガッと掴み取り、私のおでこへ、ピッ。

 

「36度3分」

ぶっきらぼうにカルテに書き込んで「次、こっち」と案内されます。

うわー。コワい。いつもの優しいナースに甘やかされている私は、ビビりまくり。

その圧倒的上から目線はまさに女王。クイーンナースの登場です。

 

心電図、メタボ、視力検査。すべての作業をクイーンナースが私にかかりっきりで捌いていきます。

聴覚検査ではオープンドアの部屋に、すぐ隣で掃除機をかけているにも構わず

 

「じゃあ、音がなったら教えて」

 

「じゃあ、いき・・・」ブオオオーン、ホイィィイイイン

 

「聞こえてる?」

 

「あ、その、ちょっと・・・」ブオオオオオン

 

「鳴ってない?聞こえてない?」

 

「えー、そのー、はい聞こえました。今聞こえました」

聴覚ではなくクイーン様の顔色を伺いながら、聞こえた合図を出す私はさながらの巨神兵を蘇らせたクシャナ殿下の手下、クロトワのよう。

 

 

その後も一切の隙をみせず検査を続けるクイーン。

着替え時間とか、息つく暇を与えず、テキパキさばいてくれますが、なんかイライラしてます?なんか怒ってます?感が否めない。

 

何があったかは知りませんが、人生大変なのは貴方だけじゃない事をお知らせしたい感情がムクムクと湧き出てきます。

 

クイーンがメモの準備をしながら

「なんか大きい病気になったことは?」と質問。

 

 

きた。

「ありません」と言うであろうと思っているクイーンへ先制のカウンターパンチ。

 

 

「肺がんです」

 

「ん?」クイーンの手が止まって、私の顔を覗きこみます。

 

「肺がんです。去年、手術と抗がん剤しました」

 

「・・・わかりました」

 

「あと心臓病にもなって、いま血液サラサラにする薬飲んでます」

メモを終えようとするクイーンナースに、追い告知。

トドメの左椎骨動脈乖離にもなりましたパンチは今日のところは温存することにしました。

 

 

「ああ・・・そう」

と言いながら、クイーンは採血の準備に取り掛かります。

心なしか、さきほどの険しい顔よりは柔らかくなったよう。

ほら、眉間にシワがなければ、こんなに素敵な女性なのに。もったいない。

 

 

採血のために左腕を出しながら

「だから、血管細くなっちゃったんですよね。やりづらくて、すいません」

と、左腕のおススメ採血スポットを伝えようとした矢先、

 

 

「はい、じゃあ刺します」

と、ちょちょちょっ話聞いてる?忠告聞いてた?くらいの早さでクイーンがまさかのアタック開始。

 

 

 

ぷすっ。

 

案の定、血が出てこない。

こりゃあ、刺し直しかなと思っていたところ

 

 

・・・グリっ!グリリリ!!

 

 

うお、出た!

刺したまま、グリグリして血管探すローリングスペシャル!

どうなっているのか怖すぎて、刺してるところを見ることができません。

こりゃあ痛い。さすがクイーンナース。強烈な痛恨の一撃をお持ちです。

 

しばらくして無事、血を採りつつもクイーンナースと去年のがん発覚までの経緯をダイジェストで雑談。最後にクイーンが笑ってくれて、これで我が王国も安泰ですぞ。と胸を撫で下ろします。

 

最後にドクターの問診。

肺にも心電図にも異常はないねという話で無事終了。

良かった、良かった。

まあ定期的な経過観察検診で異常ないことはわかってたけども、改めて別角度でも異常ないとわかったことだけで収穫です。

 

セカンドオピニオンっていうのでしょうか、これも。