がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

やさしさの裏には涙がある。

 

 

 

「肉、もらってきた」と妻が帰るなり、発泡スチロールの箱を高々と持ち上げながらリビングに入場行進してきました。

 

「随分と大きいねぇ」と私。

 

「知り合いの社長さんがくれた。コンペの景品でもらったんだって」と言いながら妻はさっそく箱に貼ってあるビニールテープを剥がし、中身をチェックをします。

 

 

パカっ。

 

 

中身は2、3cmの厚さ、長さ30cmくらいのステーキ肉5枚入り。

 

 

うおおおお!マジか!!

 

 

「でかいねぇ」と二人で驚嘆の声をあげます。

やれ「いい肉は塩胡椒で味わいたい」だの、「いい肉には赤ワインを買わねば」とひとしきり盛り上がった後、一息ついて妻が言います。

 

 

「…私たちはいつでも食べれるから、これは息子に送ってもいい?」

 

なんという海より深い母心。

ガンジーも真っ青の慈愛に満ちた懐深いやさしさ。

我が子への愛、ハンパねー。

 

 

昨日、冷蔵庫にいれていた私が買ってきた季節のフルーツたっぷりロールケーキが今朝、起きてみたら、イチゴ一個のプチケーキになっていた事件の最重要容疑者とは思えません。

 

 

「美しい親子愛。なんという泣ける話だ。いい母親をもって彼は幸せ者だ」と最大の賛辞を送ります。

 

私も負けじと「肉の焼き方を絶対失敗しないようyoutubeで予習をしてから食べるようアドバイスしよう」と最大級の親心を発動します。

 

妻はさっそく、一人暮らしをしている大学生の息子にメッセージを送信。

「おいしそうなステーキ肉、あるけど食べる?」

 

 

「是非!お願いします」と返信が返ってきました。

 

 

日頃、妻は息子へ頻繁にメッセージのやり取りをしてるらしく、大きな地震が起きたり、私の検査があったりすると、息子から都度「父さんに体調気をつけてって伝えて」的なことを言ってくれているらしい。

 

 

ある日、息子に「君は、やさしい人間だなあ」と言ったら

 

「そうだよ。俺はやさしいんだよ」と自分から優しさアピール。

本当に優しい人間は優しさアピールはしないもんですが。

よっぽど自信があるのでしょう。

 

私の好きな小説「キッチン」で、ニューハーフの母親えり子さんが、かかりっきりで育てられなかった自分の息子を「いろいろちゃんとしてないけど……やさしい子にしたくてね、そこだけは必死に育てたの。あの子は、やさしい子なのよ」というセリフがなんだか大好きだったので、すこし嬉しかった記憶があります。

 

まあ、本人の自画自賛的なところもありますが自分から優しいと言える裏には彼なりの苦労があると甘く察して、よく頑張ってんだろうと臨時の特別現物ボーナスで肉を送ることになりました。親バカですね。

 

 

ぶ厚いステーキ肉を前に、ひとしきり盛り上がった後、

「今日の夕飯は何?」と私。

 

 

「肉も野菜も無いから、納豆と漬物」と妻。

 

 

息子、お前ぜってぇ許さねぇ。