春になって空気の匂いも変わり、散歩日和だねぇ、運動日和だねぇ、布団干し日和だねぇ、ガーデニング日和だねぇと思いつつ、私といえば薄暗い部屋に引きこもり、バッサバッサと敵を斬り殺す、うららかな小春日和と真逆のゲームを実行中。
青い空と薄ピンクの桜ふぶきが舞い踊る中、私は返り血を浴びた主人公をコントローラーで操りながら、「敵はどこだー、敵はどこだー」と秋田のなまはげが「なぐ子はいねがー!!」と探し回るがごとく、鬼の形相で戦っているわけです。
こりゃー精神的にも身体的にもよくないよねと。
つい先日まで「がんって大変ですよねー」、「命って大事ですよねー」、「みんな共に生きて助け合ってんですよねー」って言ってた人が、もう殺しまくってるわけです。
なんならゲームで「おめでとうございます!100人斬りです!」とか褒められてるわけです。
こうなってしまった原因は自分にも思い当たります。
あー、やっぱこうなっちゃったかーと。
年甲斐もなく、こうなっちゃったかーと。
高橋名人世代なんで。
初代ファミコン世代なんで。
初代マリオブラザーズをやり込んで140面までいって、飽きて自分からリセットしたんで。
ポートピア連続殺人事件で最後の迷宮、Googleマップばりの地図作ったんで。
なので根っから染み付いてるゲームとの共存生活。
いざとなれば三度の飯よりゲームの時代を経て生きてきたわけで、依存性を持ち合わせているわけです。
青年時代ではゲームをやらないストイックメンタルな人、黙々と努力を重ねるアスリートな人たちを横目に「これからはこんぴゅーたーの時代じゃー」と、寒い冬の日にガンガン暖房をつけてアイスを食べながらゲームをやり続けた結果、テストを前に自分の偏差値を見比べて、世の中はとっくにテクノロジーが進み、自分はビルゲイツにはなれないと気づいた、15の夜。
やっちまってるー!
また若き日の同じ間違いを私、繰り返してるー!
と、もんどり打って後悔するのであります。
こんな状態になったのも先日、兄に「PS5の抽選が当たったけど、代わりにどう?」と言われ、以前からちょっと興味があった物欲が爆発し、じゃあ、お願いしますと5万5千円の大枚をはたいて買った、ここ数年で私史上最大の買い物。
ほら、自分の人生どうなるかわかんないじゃん。
ほら、自分の人生後悔したくないじゃん。
ほら・・・ほら・・・と言い訳も底をつき、妻に内緒で購入を決定してしまったのが誘惑の始まり。
ちょっとだけ、ちょっとだけと言いつつ、電源オン。
わー、テレビでもAmazonプライム観れるーとか、
わー、テレビでもAppleTV観れるーとかからはじまり、
翌日にはアマゾンでゲームソフトを購入。
欲しいゲームをワンクリックで買えるほどの人間になれたことをほくそ笑む私。ビバ大人。
今ではそしらぬ顔で自分の部屋にこもり息子が大学入学でいなくなったことをいいことにテレビに一人用ソファ、お菓子を持ち込んでゲーム三昧。
ダメー!こんな生活ダメー!!
とさすがに思い、マイルールを作りゲームは90分までと時間を決めて、やり過ぎ注意を高らかに宣言。
電源をブチっと消し、コンセントからコードを引き抜きます。
取り戻される静かな時間。
チュンチュンという小鳥のさえずり。
通りすがりの子供達の笑い声。
ああ平穏な時間を取り戻せました。
グッジョブ、自分。
目指しましょう、丁寧な暮らし。
叶えましょう、オーガニックが似合う人間。
とりあえずコーヒーでも淹れて、一息つきます。
それで?
次は?
え?
余った時間、私なにすればいいのー?
と、今後についてノープランだったことに気づく私。
まずい、このままでは、またゲームの誘惑に負けてしまう。
ほら見て、奴らが手招きしてる。
おもしろいよー、楽しいよー、って。
悪い奴らが街を荒らしてますよー。成敗してくださいよーって言ってる。
こんなんじゃダメだー!!と髪を振り乱し邪念を振り払い、気分転換にスーパーに買い出しを決意。
やってきたのはスーパーの生鮮売り場。
そこで、あるものを発見します。
ニラ 98円
えー!!安い!
先週、来た時ニラなかったのにー。
まさかの暴落ー!
ウホホとホクホク顔でニラを買い物カゴにつっこみ、もはや献立は餃子の一択。
豚ひき、キャベツなどを買い込み、さっそく餃子の仕込みに入ります。
餃子といえば、家の向かいにある、おばちゃん一人で切り盛りしている1軒の個人商店。
民家を改造したくらいの古いお店なので、売っている調味料の賞味期限が1年前ということもしばしば起きるくらいなのですが、おばちゃん手作りのお惣菜や、地元で採れたお野菜を売っていて、買い忘れなどにすごく重宝してました。
おばちゃんもメチャクチャ笑顔が素敵ないい人で、うちの息子のはじめてのおつかいは向かいのおばちゃんの店という、家から2秒のおつかい。
はじめてのおつかいの内容はキャベツ半玉と玉ねぎ1個、人参1本、ご褒美でアイス好きなのどれか1個を買ってくるというもので千円を持たせて向かわせたところ、買い物から帰ってきた息子は、お釣り900円、キャベツ大玉1玉、人参3本、玉ねぎ3個、うまい棒数種盛り合わせ10本、チョコレート菓子3個、アイス5個を重そうに持って帰ってきたのでした。
そのお店でたまに作る餃子がメチャクチャうまい。
私もこの世に生を受け、人間やって、まもなく50年。
数々の餃子を食してきた歴史がありますが、これほどウマイ餃子は食べたことがない。
家族一同この餃子の大ファンで、おばちゃんから「餃子あるよー!」と言われた時の我が家はリオのカーニバルばりに狂喜乱舞したものであります。
具沢山の肉汁ジューシーさとコリコリ歯応えを感じる食材もとりいれて食べ飽きさせず、たくさんのニラの風味も相まって、それはもう食べた瞬間、光悦の表情を誰もが浮かべるのです。
おばちゃんに、おばちゃんの餃子は美味し過ぎてアッという間になくなる、というと
すごくいい笑顔で「良かったー。また作るねー」と言ってくれました。
しかし昨年、春。
残念ながら、おばちゃんは急に倒れて亡くなってしまいました。
前日まで普通にしていたのに、あまりの突然の出来事で、誰もが驚き、誰もが悲しみ、40数年の歴史があったお店も閉めることになり、あの伝説の餃子も食べれなくなってしまったのです。
目指すは、あの伝説の餃子。
大判の皮に、たっぷりの餡をいれて40個。
早速、焼いて妻と実食。
んー、やっぱり自分で作った餃子はボリューミーで、うまし!
ただ、おばちゃんの餃子にはまだまだです。
餃子を見ると、いつもおばちゃんの笑顔を思い出します。