がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

夏はやっぱりアドベンチャーだ!

最近の金曜ロードショーは視聴者リクエストなるものを企画されていて、あの超有名な主題歌、♪へんざないっ、はずかむっ♪の「スタンドバイミー」、ちょっと写ったシンディーローパーが何十年も見た目が変わっていないことに驚愕する「グーニーズ」やら、甘酸っぱい少年時代の冒険ものに溢れていました。

 

こんな冒険ものの話になると妻は「あれは、すごいと思う。多分本人一生忘れないと思う」と言い出すエピソードがあります。

 

妻が言う「本人」というのは息子のこと。

妻いわく、息子にとって忘れられないエピソードということになります。

 

 

あれは息子が小学校3、4年生頃。なので9年か10年くらい前の話ですかね。

 

ちょうど補助輪なしの自転車にも慣れはじめの頃。

季節は6月。

 

私はあるプロジェクトを企画しました。

 

題して「はじめてのアドベンチャー」。

 

ちょっとくらい無茶するくらいが男の子ってもんだぜ。無菌状態から抜け出そう!という、要はちょっと「これは無理なんじゃね?」っていうくらいの目標を定め、息子が母親に「大丈夫?」って心配されながら家を出て、夕方ボロボロになりながら帰ってくるという苦しい体験こそ後々残るという信念のもと、無茶な父親ならではの冒険企画でした。

 

その企画の全容は私と息子で家から片道30km離れた山の麓にある神社に自転車で行って、お参りして帰ってくるというシンプルなもの。

 

 

でも考えてみてください。

小学校低学年で自転車乗りたてで、往復60kmです。やべーです。

考えただけでも、やべーです。

途中リタイアでもしたら、妻に緊急連絡ものです。

 

 

一大決心のバンジージャンプでもやる前に本人の同意が必要ということで、今回の一大アドベンチャー企画を前に息子へ企画趣旨を説明し、やるかどうかを聞きました。

 

本人の返答は「やりたい!」と元気の良い返事。

 

「自転車好きだし、自分で遠くに行ってみたい」と子供らしい後先考えない、目の前の楽しみだけを想像し快諾します。

 

ワハハ。知らんぞ。どうなっても。

 

「サッカーもちょうど休みだし。自転車教えてよ」と息子。

 

たしかに私も仕事漬けの毎日で、息子もサッカーの練習や試合でお互いなかなか時間が合わないので休みが合うのも何ヶ月ぶり。妻はあいにく仕事ですが、「おし、じゃあ決まりだ」と実行決定です。

 

 

冒険当日。天気は快晴。

 

 

ちょっと塩をキツめにした塩おにぎりをせっせと握り、水筒に麦茶を入れリュックを背負い、私は30分座ってるとケツが痛くなる親父形見のマウンテンバイクにまたがり、息子は意気揚々と自分のチャリにまたがり妻の「大丈夫?」の声を背に家を出発します。

 

この日のために歩道が広い道や自動車の迷惑にならないよう下調べした道をひたすら進みます。

 

父親と小さいチビが必死になってる姿がめずらしいのか、行き交う車や横断歩道で止まってくれる車に乗っている方々の顔が一様に、笑って見守ってくれています。

 

 

運転席のおじいちゃんと助手席のおばあちゃんは、孫を見るかのように拍手。

ツーリングのバイク乗りの方々はピースサインを出しながら、応援。

もはやツールドフランス。目指せ、ゴール。頑張れ息子。

 

 

私の後にチョコチョコ漕いでるチビ。なんか小鴨の行進をしてるみたいです。

 

 

目標の神社は車では何度も行ったことはあるのですが、さすがに自転車では初。

 

しかも山の麓にあるので、車では気づきませんでしたが、結構な坂道がゆるーく続いたり大人でも大変な道のりになってきます。

 

案の定、息子も坂道で3度くらいバランスを崩し、転んで泣きながら半ベソです。

 

 

その度に「やめるか?帰るか?」と聞きます。

 

本人は涙をグイッと拭って「行く」と言って、また漕ぎ始めます。

 

 

やっと目的の神社について、証拠の写真を二人で自撮りして、帰りは下り坂だぁー!いえーい!と言いながら山を降り、家についたのはすでに夕方で家を出てから8時間以上は過ぎていました。

 

その夜、息子は泥だらけの顔を風呂で洗い、爆睡し、翌日「足痛いけど楽しかった」と言ってまた元気に学校に行きました。

 

 

そして息子が中学2年の夏休み。

私は突然、息子の部屋のドアをバーンと開け「お待たせしましたー。帰ってきたアドベンチャーでーす」と叫びました。

 

あっけにとられる息子。

 

「君は日本人か?」と私。

 

「日本人です」と息子。

 

「君は日本語を話せるか?」と私。

 

「話せます」と息子。

 

「おめでとう。日本人で日本語を話せるなら、君は日本のどこに行っても大丈夫だ。これは私からのプレゼントだ。受け取りたまえ」と言ってチケットを息子へ渡します。

 

チケットをもらって、ぽかんと口を開けている息子に言います。

 

「君はこのチケットでたったひとりで新幹線に乗り、北海道の函館に行く。行きの時間と帰りの時間は決まっているので遅れないように。ミッションは函館でないと食べれないご当地メニューをランチで食べて写真を撮ること、1回は路面電車に乗って移動すること、一番自分がグッときた景色、街並みの写真を撮ってくること。なんか困ったことがあったら、近くの人に困ってるんですと相談すること。以上です。行きますか?行きませんか?」

 

息子は「行きます」と言ってくれました。

 

出発当日。

偶然にも私の出勤電車と同じ時刻の電車に乗り込むことになりました。

息子の顔が幾分、緊張しています。

いい顔してます。

車内アナウンスに敏感になっています。

新幹線に乗車するための乗り換えアナウンスに聞き入ります。 

 

「じゃあね」

途中、新幹線に乗るために息子は途中下車をしました。

 

 

そしてその夜、ラッキーピエロのご当地ハンバーガーを食べている写真と丘の上から函館の街並みが広がる写真を見ながら家族で晩飯を食べることができました。

 

電車に乗るだけでも冒険になれる年頃は、とても素敵だと思います。