悟りの境地。
がん疑いから検査、入院、手術と早半年以上も月日が流れている間、何十回と体験したもの、それは注射。
私もそこそこ人生生きてきましたから、今更注射で騒ぎませんが今回よく言われたのが
「血管、細いですねー」のセリフ。
今まであまり言われたことないんだけどね。
むしろ「太くて立派だから(なんかエロい)血管逃げちゃうー」くらい言われてたのに。
がんで細くなっちゃったの?
加齢で細くなっちゃったの?
様々な疑問が頭に湧き出てきますが、とりあえず今は細いのだという事実。
ぷすっと刺して、「あれ?」と焦るナースさん。
「ごめんねー、もう1回」と
真剣な眼差しと緊迫した空気で緊張がこちらまで伝わります。
まず1回で完璧に刺さった試しがない。
今までそんなことなかったのにー。
抗がん剤治療の時、採血した腕と逆の腕に抗がん剤の点滴針を刺してました。
左腕で採血をしたら、右腕に抗がん剤の針を刺すわけです。
何回か失敗したナースさんにヒアリングしたところ、どうやら左より右のほうが若干血管が太く刺しやすいという情報が。それからは左で採血、右で抗がん剤を基本フォーメーションにしています。打ちやすいか、どうかははわかりませんが打率は高くなったと思います。
でも注射する時、ナースさんたちは、なかなかのプレッシャーですよね。
普段の生活で体験できないほどの緊張感。
失敗したくないと思うドキドキな気持ち。
こっちは痛いかなーと思うドキドキ感。
もうこれは同じ危機的場面を一緒に過ごすことで生まれる「恋の吊り橋効果」が発生する場面ではないかということに気づきました。
恋の吊り橋効果、思わず調べると「同じ状況を一緒にドキドキして体験することで脳が恋と錯覚する現象」となってました。
なんと素晴らしい。こんなところに恋愛ドラマが待ち受けていたとは!
注射をキッカケに禁断の恋の始まりを予感させます。
俄然、注射の時間が楽しみになってきました。
採血や注射のたびにドキドキ。あーこの胸の高まり。齢40を過ぎて、まさかこんな恋の予感を感じるとは(もはや文面がすでにオヤジくさい)
ぷすっ。ぷすっ。ぷすっ。
刺される度にドキドキ感がありましたが、こうも何十回も刺されるとドキドキ感はなくなり、もはや菩薩様のような平たい目で悟りを開いた平常心となっていきます。
失敗しても温かい眼差しで「大丈夫だよー」、注射ができると「うまかったねー、上手上手ー、すごいねー」と、すでに恋の予感はどこかにいってしまい、ジジイと孫。
人間の三大欲、性欲・食欲・睡眠欲。
抗がん剤は食欲はおろか性欲でさえも消えてなくなります。恐るべし。
ただ色んな原動力は、三大欲から来てるのも事実。
欲ってのは、良くも悪くも働くものだなーと感心するのでありました。