がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

忍び寄る不穏な影。

入院の準備をする時から、その存在を薄々感じていました。
病院&入院=あいつがいる
という方程式は自分の頭の中ではありました。
ただ不覚にも、入院してそれが出るまで、すっかりその存在を忘れていて、その対策準備を怠っていたのです。
病院のどこかに潜む恐怖。いるかいないかわからないのに、病院ならば、どこかにいるだろうと確信にも似た思いが巡る存在。

来る。きっと来る。きっと来る。

人々の幾多の感情、思念を受け、大きくなったモノから生み出される恐怖。
それは、入院中いきなり私の目の前に現れました。

 

牛乳。

[ぎゅうにゅう]
牛の乳。白い液体。後味最悪。絶対飲めないわけではないけど、すすんで飲むモノではないもの。何かと割ると普通に飲めるモノ。

やっぱ、出たかー。
そーだよねー、やっぱ病院食って言ったら、牛乳はセットでくるよねー。
しかも和食と牛乳って、ミスマッチ感半端ねー。
煮魚の隣に、牛乳いるよー。
お出汁の汁飲んだ後、ミルキー感じれるかなー?美味しさ感じるかなー?
場違いだよね?空気読んでないよね?
タンパク質補うための招聘だよね?とりあえず穴埋めて来いやって登板したよね?

私は牛乳が苦手です。
でもミルクティやカフェオレや、ヨーグルトやラッシーや、カルボナーラやグラタンなどのカテゴリに入る牛乳加工品最前線部隊の方々は大好き。
牛乳どストレートが苦手なのです。

なにが苦手かというと、あの後味。
飲んだ後に口に広がる、なんともいえないモヤモヤ感。味。
思い出しただけでもゾワゾワします。

ただここは病院。牛乳は飲み物の王様であることは私も百も承知。健康に良い飲み物としては登板することは常識的に当たり前で、食事に出ることは火を見るに明らかだったのにも関わらず私は出た場合の対策を取らずして、入院生活に突入してしまったのです。

とりあえず看護師さんの食べれたかチェックをかわすべく、そっと牛乳を冷蔵庫へ格納。

ふーっ、とりあえず今日のところは防げました。

 

翌日。朝・昼・夜まさかの3連チャン。
もう冷蔵庫パンパンです。冷蔵庫が牧場みたいに牛の乳だらけです。
これ以上の格納は絶望的で、賞味期限も退院予定日前に切れてしまう。
病院にいる間にどうにか消化しないと、冷蔵庫から異臭騒ぎを起こしてしまうのです。

そこで、私はハタと気付きました。
小学校時代に飲んでいたミルメークという存在。牛乳に粉をいれると、あら不思議。
牛乳がコーヒー牛乳になって、牛乳が苦手な子供もゴクゴク飲めちゃうスグレモノ。

あれならば私もゴクゴク牛乳が飲める!と思い、さっそく病院の売店に。
しかし残念ながら売店では販売しておらず、妻に着替えとともにミルメークをとLINE。
仕事の合間を縫って後日届けてもらえることになりました。

それでは今の状況をどうしようかと売店で悩んでいたところ、見つけました。

カルピスウォーター濃いめ」

ペットボトルのカルピスウォーターを口に含み、含んだままで牛乳を注入、牛乳のカルピス割を口のなかで行うという作戦です。

 

牛乳のカルピス割は日頃から飲んでいるので後味が解消されることは確認済み。
ただカルピス原液は売店では売ってないので、カルピスウォーターでそれを実現しようとする壮大な試みです。

いざ購入し病室に戻り、カルピスウォーターを口に含み、牛乳を流し入れます。
もう口がはちきれそうです。ほっぺたがパンパンです。

ゴクリ。

 

おおー!嫌な後味がありません。ほのかなカルピスの甘みが口の中に広がります。
成功です。やったー!やりましたー!
これで牛乳対策もバッチリですー!

 

喜んでいたところに食事スタッフの方がいらっしゃいました。

「どーですかー、抗がん剤で食事食べれてないみたいですねー」

「そーなんですよねー、気持ち悪くてー」

「そーですよねー、でも口から栄養取れるようにしたいのでー、食べたいモノありますか」

「んー飲み物くらいだったら、飲めるんですけどねー」

「そーですねぇ、まあ牛乳以外でも野菜ジュースとか色々あるんでー」

「え?」

「野菜ジュースとかー、飲むヨーグルトとか、選べますよー」

「…じゃ、次から野菜ジュースで」

次の日から毎食のお盆から牛乳さんは消えました。今までありがとう。さようなら。
なんか、ごめんなさい。

冷蔵庫にある大量の牛乳たちは後日、妻が差し入れてくれたミルメークカルピスウォーターでお腹たぽんたぽんになりながら美味しくいただきました。
良い子のみんな!好き嫌いはなくそうぜ!