がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

人恋しい夜に。

気を取り直して入院2回目、抗がん剤治療2週間の旅を決行することになりました。
入院の持ち物(「クールにいこうぜ、がん告知」を参照)もバッチリ、今回も個室です。
1回目は看護婦さんに入院棟まで案内してもらいましたが、今回からは

 

「あ、もう大丈夫っす。一人で行けますっ」

 

と先輩気取り。もう入院ルーキーとは言わせねぇ。勝手知ったる廊下をスタスタ歩いて入院棟のナースステーションへ。
入院する棟はナースステーションを真ん中に左側と右側に病室があります。右側廊下沿いはおもに四人部屋、左側はおもに個室という作りに。先導の看護婦さんについていきながら左側の廊下へ案内されると、他の病室から漏れるオジイ様方のうめき声がスゴイ。

 

「ぐあぁー、うおぉー」

「たえ子〜、たえ子〜、助けてくれえ」

 

なんかもうバイオハザードの世界。かなりの重症なのかとっても辛そう。
逆に重症だから個室なのか。それぞれの病室から、咳き込む声、痰を吸引する音、心拍をカウントする機械音。内科特有の雰囲気ってあるのねーと思いつつ、病室へ。

ひとしきりいつもの入院手続きを行なって、抗がん剤は午後からってことに。昼食は普通食で完食、ベッドに横たわりながら準備万端でその時を待つ。

 

「たえ子〜、どこにいるんじゃ〜、たえ子〜」

 

病室からおジイ様の叫び声。たえ子さんは思うに奥様の名前か。コロナで付き添いもできないので心寂しいんでしょう。お察し申し上げます。

 

「たえ子〜助けてくれ〜。殺される〜たえ子〜」

 

おジイ様、ここは病院です。殺されません。大丈夫です。むしろあなたを生かそうとしてます。安心してください。

 

「たえ子〜、どこにいるんじゃ〜、たえ子〜腹減ったじゃ〜」

 

おジイ様、おそらくですがもう飯食ってます。私も食べましたから。この廊下全室さっきお昼ご飯運んでましたから。名前わかんないですけど煮魚ありましたよね?食べましたよね?

 

「たえ子〜、連れて帰ってくれじゃ〜、たえ子〜、オメーどこいんだよ!」

 

おジイ様、頼むからキレないで。みんな頑張ってんだから。誰も悪いことしてないから。耐えよう、ここは耐えよう。コロナだもん、しょうがないよ。たえ子さんも来たがってんだよ、でも来れないから。ここは我慢しよう。

 

「たえ子〜、たぇ……」

 

…ん、え、どうした?おーい、どーしました?なんかあったんですかー?大丈夫っすかー?

 

グォオオオオ(いびき大音量)

 

・・・看護スタッフの皆さん、いつもお仕事お疲れ様です。

 

 

しばらくして点滴が運び込まれ、まずは副作用を抑えるための吐き気止め系の点滴をしてから、抗がん剤を入れますとのことで、腕に点滴の管をプスリ。
それからは、点滴がなくなっては替え、なくなっては替えが続き14時から始まり終わったのは19時くらい。
途中、針を指しているところが痛くなって点滴スピードを落としてもらったためか食事の18時を過ぎてしまった。点滴しながら食事を食べ完食。予定オーバーだったかな、失礼しました。ま、とりあえずこれで抗がん剤注入完了。今のところは問題なしです。

 

夜も特段問題なく就寝の時間へ。

「たえ子〜、たえ子〜」

 

の叫び声も元気に廊下へ響いています。元気そうで良かった。

消灯の時間。廊下は真っ暗に。

 

「たえ子ー、たえ子ー、どこにいるんじゃー!」

 

夜は声が響きますね。サラウンドのように音響が響きます。これで人恋しい寂しい夜も、この大音量の叫び声で安心です。

 

「はーい、呼びましたかぁ?どうしましたぁ?」
スタッフの方の優しい声。どうやらオジイ様がナースコールを押したようです。

 

「・・・なんでも、ありません」

 

「じゃあ、なんでもなかったら、これは押さないでねー」

 

「はい、わかりました。すいません・・・たえ子ー、たえ子ー」

 

それぞれに人恋しい夜は過ぎていきます。