がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

懺悔の行方

お医者さまから「リンパ転移」の不穏な伏線を張られて、ベッドの上でググってみる。

 

人間にはリンパ節ってのが左右の肺と繋がっててー、このリンパ節ってのは血液をドックン、ドックン流してるとこなのでー、ここに転移してると結構ヤバめかなー、要は血流でがん細胞が全身回っちゃうわけよ、肺がんってただでさえ転移しやすいじゃん?手術で取り切れない「がん細胞」なんて顕微鏡レベルでいっぱいあるわけよ、それが血液にダイブしちゃって全身一周旅行してるわけよ、そりゃ他のとこでひょっこりはんってな可能性捨てがたいよね。ステージあがるよね。レベルアップだよね。もう、ひよっこなんて呼べないよね。まあ少なく見積もってもステージ3か4かなー。まーステージ3で5年生存率は50%切るかなー、でも「がん」って個人差あるんであくまで統計の数字だから。そこんとこ、よろしくー。

みたいなことが書いてある。

 

それを受けて私は思いました。

 

そうこなくっちゃ!
いいぞ、俺。やった、やり遂げました。レベルアップ勝ち取りました!

 

ごめんなさい。
命を救おうと頑張ってくれてるお医者さま、スタッフの皆さま、応援してくれてる皆さま、心配してくれてる家族のみんな。

 

だって人生嫌で毎日、このままぶっ倒れないかなぁ、血が鼻から耳から口から吹き出て倒れないかなぁ、仕事行きたくないんだもん、このまま生きてて辛いんだもん、このまま生きてても楽しい最高限界値が過去イチの楽しい時より超えなさそうなんだもんと日々、メンヘラ井の中の蛙的に世の中を生きてきた自分にとってステージ1の「がん」なんて衝撃がまったくないわけです。すぐ死ぬとかじゃないんでしょ?助かる可能性あるんでしょ?なんだ風邪みてぇなもんじゃん。みたいな受け止め方です。ほんと最低の人間ですね。命をなんと心得ているんですかね。

 

なので告知されてから、どうせなら目指すはステージ3か4と心の中で狙ってたわけですよ。
もうこっちは血反吐吐いて倒れたいんですから。会社の朝礼の時に「ぐはっ!」って言ってバケツ一杯ぐらい血を吐きたいんだから。それぐらいのステージじゃないと、いますぐどーにかなりたい自分は納得できねーっすってな感じだったので今回のお話は誠にもって結果が待ち遠しいものとなりました。

 

というわけで改めて「こっちは頑張って治そうとしてんのに」とお思いのお医者さま、看護スタッフの皆さま。そして今この瞬間、がんの治療を頑張ってしている皆さま。
ほんと、すいません。私が逆の立場だったら間違いなくキレてます。

 

なのでお医者さまからのサプライズ転移疑惑の告白でヘコむことはまったくなく、入院生活は何事もなく無事終了。

日を改めて妻と術中に採取した検査結果を聞きに病院へ。

 

「手術してみて、わかったことなんですが…」とお医者さまが切り出す。

 

「がんはリンパ節まで転移していました。転移していたということなので、ステージは上がってステージ3の一段階aです。5年生存率は50%は切ります。手術前の説明でしたように左肺の半分だけ取る予定だったのですがリンパにも転移が認められたので、見えるところはリンパ部分も取りました。とりあえず目で見えるところはキレイになったと思います。ただリンパ転移となると全身への転移も考えられます。これは目に見えないレベルなので手術では取り切れないものです。なので、抗がん剤で見えないがんもやっつけたいと思います。抗がん剤は内科になるので、今後は呼吸器内科にバトンを渡します」

 

 予想通りのステージ3への昇格。内容も転移疑惑から、ほぼ事前に調べていた予想と同じです。

呼吸器内科の先生からは

抗がん剤の投与は4回やります。体にかかる負担もあるので、最初は2週間入院してもらって副作用の様子とか見ながら、今後を考えていきます。特に問題なければ、あとの3回は1日だけの入院で大丈夫です。投与は1日6時間くらいかけてやります。1回打って様子みて3週間後に体力が回復したら、また投与っていうのを繰り返していきます。投与する抗がん剤はシスプラチンとアムリタというやつです。一般的によく使われるお薬です。副作用が出始めたら、それに対応するお薬で症状を抑えていきます」

 

出た。抗がん剤。あまりいいイメージは湧かない。
ドラマでよく見る便器抱えてオエーッ、オエーッとなってる映像や髪の毛がゴソッと抜けてスキンヘッドになる映像が頭の中にフラッシュバック、自分の抗がん剤知識はその程度。

でもまあ、断る理由もないし、他にいい手立ても知らないし、抗がん剤でいきましょうって言ってくれてんですからセカンドオピニオンどーのこーのやるほど自分の生き死にに執着もない。

「じゃあ、よろしくお願いします」
と言って私と妻は頭を下げた。

 

家に帰って妻とソファに座りテレビを見ていたら、横でいつのまにか妻は泣いていた。
「生きる可能性があるかぎり頑張ろう」と言って、私の手を握った。
「うん」と言って、ああ自分のせいで泣かせちゃったなあと思った。
テレビから観客の笑い声が聞こえた。