がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

聞こえてるかい?飲んでるかい?

なんちゃらウィルスで外でお酒を飲む機会も減り。
お酒を力を借りるしか、今の若い方々と話を合わせるボキャブラリーがない私は、最近めっきり明日を担う楽しい飲み会をしていないことに気がつきました。

お外で飲むことは想定外のことも発生して楽しい限り。


以前、居酒屋で幅広い年代層の男4人でテーブルを囲み、仕事に悩みを抱えた当時34歳男性会社員、通称”まっちゃん”の相談に乗ろうと仕事だ、恋だ、遊びだ、オススメのコンビニおつまみだ、とワイワイやっていたところ、隣のテーブルが頼んだ料理が私たちのテーブルに間違って到着。

「あ、うち頼んでないっすよ」と私。

「あ、それこっちっすね。すんません」と隣のテーブルのあんちゃん。

テヘッ。
「あ、どうぞどうぞ。うまそうっすね」と私。

間違えた料理を渡す時に気づいた隣のテーブル。
若い20代後半から30代前半とおぼしき男4人。
だけどメッチャ体格いい。
しかも身なりは清潔感に溢れムキムキマンでイケメン。

イケメンでムキムキ → モテるだろう → 全国モテない男イバラの道協会会長の私の敵


スイッチ入ったよね。


ドラマみてーな出会いが、野郎どもでご愁傷様だ。
こんな出会い方からして女子ならコロっといっちまいそうだ、あぶねーあぶねー。
また純粋無垢な女子が危険な毒牙にかかるとこだったと。
こりゃあ、負けらんねーと。
酒で勝負してやろーと。
酒の経験豊富な中年男子のチカラ、見せてやろーと。
酒の力も入って気持ちも大きくなってね。
やっちまいますかと悪魔の私がほくそ笑んでますよね。



「スッゲーいい体してますねー。なんかやってんっすかー?」



まず軽くジャブで、相手の動き探るよね。


「和太鼓のパフォーマンスやってましてー。体こうなるんっすよー」


へ?もう、負け確定じゃね?

仕事も体も、勝ち目なくね?

もう、やめたほうがいいんじゃね?


周りの仲間が私に目で訴えてね。私が一番感じてんですけどね。
今更、話しかけた手前、後戻りもできないんでね、ドモリながら言いましてね


「じ・・・じ、じゃあ、さぞかしお酒もお強いんでしょうねぇー・・・」
もう、口がヒクヒクしてる。妖怪全集に載ってある地味な妖怪のような、ひきつり笑い。


「まあ、そこそこですかねー」
満面の笑みで返すあんちゃん。笑顔が爽やか。聖者の貫禄。


もう完璧、私のこちら側、ダークサイド。
光と闇の戦い。
悪魔に魂を打った私とそれを倒す勇者の戦いみたくなっちゃってる。

もうあとは、お互いの人生を歩みましょうと。
すいません、お時間お邪魔しちゃって。
ごゆっくりどうぞーと言おうとした、その時。


「じゃあ、乾杯しようぜえええー!!」


まさかの”まっちゃん”、大絶叫。
アナタ、さっきまで俺なんかダメっすよねーって弱ってたよね。
アナタ、ビシッと言える勇気ないんっすよねーって言ってたよね。

もう鼻息荒くなってるし。
真っ赤な顔で、鼻息フーンで赤鬼みたくなっちゃってるし。
うちらすでに全員赤い顔で見た目も鬼ヶ島の鬼側になってるし。
益々、善と悪の戦いになっちゃってるし。


「そうっすねー!!!!」とまさかの勇者達も負けずに絶叫。


乗るー?この話そっちも乗るー?

まさかの意気投合。

まさかの勇者と鬼の共存生活。

まさかの勇者と鬼のコール&レスポンス。


「テーブルくっつけちゃいましょうよー」
「今日何飲みなんすかー」
「もっかい、乾杯しよ。もっかい乾杯しよ」


メッチャ、仲良くなってんですけど。
メッチャ、コミュ力高いんですけど。


呆然と立ち尽くす私をよそにメチャメチャ楽しそうな飲み会に発展してる。
鬼と勇者、肩と肩を組んで笑い合ってる。
♪いいな、いいな♪人間っていーいーなー♪って歌ってる。


飲んでてて気付くのが、そのペース。
焼酎水割りもしくはロックをゴキュゴキュ、飲んでプハーッとする勇者たち。

「酒、強いですねー」と聞いたら

「みんな九州出身なんでー、焼酎には慣れてんですよねー」とテヘペロ顔で勇者。


「やっぱ、酒っていったら日本酒でしょーよ!」
東北出身”まっちゃん”が叫ぶ。


おいおいおい。爆弾小僧。
火に油を注ぐな。
大人しくして、お願いだから。
平和に生きようよ。
ピースフルな世の中目指そうよ。


「この銘柄飲んで欲しいんっすよー俺わぁ、すんませーん、これ1升」
”まっちゃん”が指さしたのは故郷東北の辛口吟醸の地酒。

は?1升?

「ここの店、1升買いできるんすよー」

へへっ。
”まっちゃん”得意満面。今日イチの笑顔。

「いやー九州の焼酎も飲んで欲しいんっすよねー。すんませーん、これ全員分ロックで」
勇者のあんちゃんも負けずと応戦。


は?焼酎をロック?


テーブルに置かれた日本酒一升瓶とおちょこと並々と注がれたロックグラス。

もうマンハッタンみたい。
もうキラキラすぎて、涙なんだか、グラスのせいなのか、わかんない。

もはやその後の記憶はなく、とりあえず年の功ということで今日の飲み代は私たちが払うと言って、ハグして別れたことだけは覚えてる。


アーティストにはライヴ。

サラリーマンには居酒屋。

場所は違えど熱くなる場所には変わらない。
私たち全員表現者だ。


またみんなで、飲めるといいね。