がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

いくつになっても。

そういえば今月末、私の誕生日なんですよ。


もうアラフィフなんでね。今更この歳でバースデーかってね、思うんですけど。

やっぱね、誕生日ってなんか特別感あるじゃないですか。


ドラマで誕生日なのに仕事で気づかなくて、気づいた時に新たなラブストーリーが始まったりするじゃないですか。


この日常のなかの何かが起きそうな期待感っていうんですか。

この日だけは自分にご褒美を的なスペシャル感っていうんですか。

あるじゃないですか、ぶっちゃけ何歳になっても。



でね、忘れもしない去年の話なんですけどね。
まあ誕生日前日からお気に入りアーティストのバースデーソングなんか聴いちゃったりしてね。

気分が結構盛り上がっちゃってね。

明日は誕生日だー。仕事早く終わろーとかね、なんか自分にご褒美かなーとかね、色々考えながら前日寝床についた訳ですよ。


朝6時。

いつもより早い時間にパッと目覚めてね。
いつものスライムのような動きじゃないですから。
もうババっと起きてね。

おっしゃ、1年の計は誕生日にありってね。
ハッピーバースデー自分ってね。テンション高めでいったわけですよ。

生まれ変わり1日目の私がシャキシャキ動きながら、リビングに行ったらですね。

妻がソファで横になりながらTV観てる訳ですよ。

「おはよう」
とまずは、元気よく私からの挨拶だよね。
生まれ変わった自分、見てくれっていう感じでね。

そしたら
おはよ」と。

蚊の泣くような声って、あんな声なんだね。

まあ半分寝てるよね。まあまあしょうがないよと。
昨日も忙しかったしと。
時間までゆっくりしてくださいよってね、コーヒー淹れて、今日のごみは資源ゴミかなーって、ごみ集めて、まあ朝のルーティンをこなしていきましたよ。


しばらくしたら息子も「おはよ」と部屋からおりてきてね。

「おはよう」と私も元気に答えてね。まあまあ、高校生の朝は忙しいからね。

大変だねーって思いながらね、なんか二人とも言うことねえのかーと心の中で叫びながら、努めて冷静にコーヒーすすってて。



まあいい時間になって妻も息子も出発準備に取りかかっててね。

もう会話もまったくないよね。ドタバタ私の周りを走り回ってね。

ドライヤーの音から、着替えやら、ヤクルトの一気飲みやらやってんですけど。


私はコーヒー飲み終えてね、マミー飲んで過ごしてんですけど。

もう待機中の時間持て余して、腹タポンタポンになってんですけど。


 

二人なんか、私に言うことないかなーと。

今、絶賛受付中だよーと。

オーラ必死に出しながらも今、時間空いてますってアピールしてんですけど、まったく二人はそれどころじゃないというか、視界に私入ってない。



時間が私だけゆっくり動いて、あっと言う間にね、私が出発する時間になってね。


ああ、こりゃあ二人とも絶対気付いてないと思って。

今日のスペシャル感微塵も感じてないって思って。


まあ、しょうがないよねと、じゃあ行ってきまーすって言ったらね、
妻がちょっと待って!って叫んでて。



ふふっ。

OK、OK、慌てなさんな、お嬢ちゃんと。

待っててやるからと、その思い受け止めるからと。

年に1回のスペシャルメッセージ届けてこいよと思いましたよね。

妻がドタドタ走ってきて言った言葉。



「新しいごみ袋セットしてなかったよ。気をつけて」
というありがたいアドバイス



「・・・ごめんなさい」
生まれ変わって謝罪第1号が妻。

罪状:新しいごみ袋をごみ棚にセットしていなかった罪



私、そんなに前世で悪いことしたのかなと思いつつ会社に向かいましたよね。




仕事中に妻からメッセージを受信しまして

「今日、仕事いつも通りに終わるの?」と。


ふふっ。


OK、OK。今日は御馳走のサプライズかと。

家帰ったら、クラッカーパーンのおめでとう!みたいな。

寿司と鳥の丸焼きとバースデーケーキかと。



思ったんですけど、それは一瞬で消え去り、奴らは完全に忘れているに違いないという疑念は到底払拭できず、もし何もなかった場合、自分があまりにも可哀想すぎるという結論に到達。


仕事終わりに、さすがに自分にご褒美は必要だろうという思いに駆られまして。

ケーキ屋に行きまして。
買いましたよ、ケーキ3個。

さすがにホールケーキはつって、つつましく種類別のケーキ3個でね、祝おうと思いまして。

まあ万が一、奴らがケーキ買っててもね、



あー、ケーキかぶっちゃったよー。しょうがない、2つ食うかー、ウフフ。

という幸せな幻想も抱きつつ帰宅。

 



まあ、そのはかない夢はぶっ飛んだよね。

家は真っ暗だったよね。

鍵かかってた。

家、寒かった。

クラッカーバーンの代わりに、炊飯器の予約タイマーが炊き上がりの合図をピーピーしてた。




まあ二人とも忙しいからね。

しょうがないとリビングのテーブルにケーキを置いて部屋着に着替え。

着替えてる最中に二人が帰宅しテーブルの上にあるケーキを見て「あー!」と叫ぶ。



やっと気付いたか。者ども。



妻と息子はテンション上がりつつケーキ箱の中を見て、「うまそう、うまそう」と連呼している。


「おかえり。ケーキ買ってきた」と私。


妻は言った。
「えー、ありがとう。なんかあったの?」

「・・・」
え?

「・・・」
妻と息子が満面の笑みで私の返答を待っている。


「・・・今日、私の誕生日」

妻と息子が、口を開けてお互いを見る。数秒後、私を見て口を揃えて言った。

 

おめでとう・・・ございます


声がちっちゃーい!


その日の夕食は妻がスーパーで買ってきた餃子と納豆でした。
今年はその日1日、怒られないことが目標です。