がんになって日日是好日となるか

肺がんステージ3を宣告され、治療を続けるアラフィフの日常

この素晴らしき世界

マジカルウィンク。

おばちゃん(たまにおじいちゃんもいますが)がウィンクしながら、おまけしてくれる現象。

それがマジカルウィンク。
私はこの魔法をそう呼んでます。

このマジカルウィンクは私も予期しないタイミングで起きる現象のため、起きた時のサプライズ感、特別感、ハッピー感がとてつもなく大きく、何年経ってもほっこりする思い出として強烈に記憶に残ります。

昔でいえば若かりし頃、花の大都会東京で田舎丸出しの若造が着慣れないスーツを着てのランチ時に起きました。

当時、私が務めていた会社の部署ではランチになると2交代制の4、5名で会社近所のイケてるレストランや焼肉屋さんなどなどを巡り、ランチを食べ終わればどこかのカフェでコーヒーをすするというものが基本コースでした。

入社しばらくは先輩方と一緒に食べていたのですが、お給料も少ないもので先輩方のお誘いを丁寧にお断りをさせていただき、一人飯を実行したのでした。

一人飯になってからは弁当を買って会議室で食べたり、漫画本がいっぱいある喫茶店のランチだったり、ボリューム重視の汚い定食屋だったりとコスパとお財布をにらめっこしながら過ごしていたのでした。

そんななかよく行くお店で、お肉屋さんがやっている定食屋さんがあり1階が精肉店、2階が定食屋さんのお店がありました。

私は1階でカツカレーの食券とジョージアの甘いロング缶ミルクコーヒー(カレーによく合う)を買って、2階で食べるのが常でした。

そこの定食屋さんでは豆で淹れたコーヒーも300円くらいで出していて、ランチを終えた方々がよく飲んでいたのですが、ある日いつものように食券を2階で出すと、おばちゃんが「これ食べてみて」とマジカルウィンクをしながら私にコーヒーゼリーをくれました。

コーヒーゼリーはメニューにはのっていないので、余ったコーヒーを元に作ったと思われましたが、とっても美味しくて、なにより田舎出身の知り合いもいない優しさに飢えた若造には美味しさもありますが、声をかけたくれたこと自体とっても嬉しい出来事でありました。

それからも弁当屋さんでは
「大盛りにしといたよ」とウィンクをされ、

「いつも来てくれるね。お代わりサービス」と
茶店でコーヒーをいれながらウィンクされ、

「揚げる数、間違えちゃった」とウィンクと
ペロッと舌を出しながら
エビフライを1本サービスしてくれるのです。

なんだここは!
ここは夢と魔法のワンダーランドだ。
みんなミッキーばりに、いい人だ。
こんないい人達を見た事ない!
と感激したのを覚えています。

数年経って、ロシアで四年ほど仕事で駐在していたのですが、そこでも

「もっと食べなきゃダメだよ」と
スカーフを頭にかぶった日焼けしたロシアおばちゃんがウィンクしながらボルシチをサービスしてくれ、

「おかげで売上が増えたのでお祝いよ」と
ミセス・ダウトのようなおばちゃんがウィンクをしながらシャンパンで乾杯をしてくれました。

いま現在、私が住んでいるところでも、
やれお菓子だ、お米だ、採れたて野菜だ、手作りケーキだと私にウィンクを送っては色々と御馳走をいただけるのです。

この世界は、ほんとに素晴らしい。
しかもみんな、いい人すぎる。
なんかもう、大好きだ。

そんな事を思う事もしばしばで。
頭の中ではルイ・アームストロングがしゃがれた声で歌い出します。

先日、昔から食べていて大好きな薄い皮と甘すぎない白餡が特徴の今川焼きを買いにお店に行きました。
おばちゃんが「もう店じまいだから。サービスするね」と言いながら両目を閉じました。

ん?


と思いましたが、おばちゃんが、えい!えい!と両目を閉じるので、
あ、ウィンクのつもりなのだなと察し、
ありがとうございます。えへへ。と照れました。
そんな私をみて、おばちゃんは「また来てね」と言って、えい!えい!と両目を閉じるのでした。